マクガバンレポートからの発展

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新しい栄養学のすさまじい発展と、エビデンスの問題

新しい栄養学は、最新の科学的知識を積極的に導入する
ここでは生化学を中心とする新しい栄養学の発展過程と、現時点での新しい栄養学が抱える“エビデンス”の問題を取り上げます。

新しい栄養学は、最新の科学である生化学や食物学・微生物学・分子生物学などの研究成果を取り入れた栄養学です。それは遠からず、前途有望な最新医学の一部分として、人類の健康のために多大な貢献をすることになるでしょう。

とはいっても現時点では、どこまでも歴史の浅い新分野であることには変わりありません。そのため十分な科学的実証性(エビデンス)を整えるまでに至っていないという問題点をもっています。その意味で新しい栄養学は―「科学的エビデンスを蓄積し、科学として、あるいは医学としての明確な立場を確立しつつある発展途上の新しい科学・新しい医学の一分野」と言うことができます。

新しい栄養学研究のすさまじい進展
Mレポートに端を発して急激に進展するようになった新しい栄養学は、現在までにそれほど長い歴史があるわけではありません。しかし、その数十年の間に栄養素に関する発見が相次ぎ、新しい栄養学はすさまじい勢いで発展してきました。栄養素についての知識は日進月歩のスピードで広がりを見せています。

1980年代までの栄養素に対する生化学の研究は、主に動物実験と培養細胞レベルで進められてきました。人間を対象とした疫学的調査研究も一部では行われてきましたが、研究規模としては小さなものでした。ところがそうした研究によってもたらされた栄養学的発見と情報は、積極的な臨床医たちによって活用され、現実に大きな成果を上げることになりました。

その後アメリカを中心に、大規模で厳密な人間を対象とした臨床調査(無作為割付・二重盲検)が進められるようになり、栄養素に対する研究体制はさらに充実することになりました。それまでの研究で明らかにされてきた栄養学的情報についての、本格的な追跡調査が開始されるようになったのです。

その結果が1990年代に入って少しずつ公表されるようになっています。ここにおいて現代栄養学は、さらに正式な科学としての段階に進んでいくことになりました。これまでとかく不足していると言われてきた「科学的エビデンス(科学的根拠)」が、新しい栄養学の中に着実に確立される時代に入ってきたのです。

栄養素をめぐるエビデンスの問題
現時点までの大規模な臨床研究で、明確な科学的エビデンスが実証されている栄養素は一部のものに限られます。栄養素の働きやメカニズムに対する厳密な科学的実証を得るには、今後さらに長い期間が必要とされます。これまでの動物実験や培養細胞レベルでの研究によって有効性が確認されたデータは膨大な数に上り、それを厳密で大規模な臨床研究を通して確認するには、何十年という期間を待たなければなりません。

動物実験や培養細胞レベルで明らかにされた栄養学の研究成果は、すでにその多くが臨床の現場で活用され、現実に大勢の患者の病状を改善させてきました。栄養素の有効性については臨床の現場では確認されてきましたが、それにもかかわらず科学として正式な認証を得るには、さらに厳格で大規模な臨床研究の成果が明らかにされなければならないと考える研究者や専門家がいます。従来の研究成果に否定的・懐疑的な見方をする人たちです。代替医療やホリスティック医学に批判的な通常医学の医師たちは、科学的エビデンスが明確にならないうちは「サプリメントなど用いるべきではない」と言います。生化学栄養学においてはほぼ常識となっている“サプリメント使用”の必要性を認めようとしません。

一方、こうした否定的な見解に対して、肯定的な立場をとる専門家や医師たちもいます。彼らは次のような点から、サプリメント使用に対して肯定的な見方をします―「現時点では“栄養素”の有効性についての科学的エビデンスはまだ不足しているが、今後の研究によって実証される可能性が十分ある」「すでに臨床の現場で治療実績を上げている事実がある」さらには「動物実験や培養細胞実験で効果が認められ、しかも副作用がほとんどない」などです。エビデンスだけに縛られて、すべてのサプリメント使用をストップするというのは、あまりにも大きな損失の可能性があると考えるのです。プラスの可能性を積極的に認め、評価しようとします。ホリスティック栄養学は、後者の立場を支持しています。

科学的エビデンスが現時点では実証されていないからといって、サプリメント使用に効果がないということにはなりません。有効性が期待され、実際に臨床の現場で効果を上げているサプリメント使用を、エビデンスが実証されるまで5年も10年も待つということが、果たして賢明な判断と言えるでしょうか。

この問題については最終的には、個人個人が、あるいは医師の1人1人が“自己責任”のもとで決断しなければなりません。批判的・懐疑的な見解に基づいてサプリメント使用を控えるのも、逆にプラスの可能性にかけてみるのも、最終的には1人1人の判断に委ねられることになります。

食事改善80%以上が、ホリスティック栄養学療法の原則
科学的エビデンスが現実に問題となるのは、主としてサプリメント使用をめぐっての場合です。現代医学で用いる化学的医薬品と、生化学栄養療法で用いるサプリメントやハーブは、「薬効成分を含んだ物質を用いる」という点で共通性をもっています。そのために厳密なエビデンスが要求されるのです。

この辺りの事情は、代替医療に属する鍼灸やカイロプラクティック・気功・ホメオパシーなどとは大きく異なっています。こうした代替医療には、医薬品や栄養素のような科学的エビデンスの検証方法が適用できないために、エビデンスがあまり厳しく要求されることはありません。

栄養学には、現代医学と同様のエビデンスが求められることは当然です。新しい栄養学は、常に自らに厳しい条件を課し、それをクリアしていかなければなりません。エビデンスの問題は、サプリメント使用の際にさまざまな制約をもたらすことになります。それが栄養療法に関心を寄せる多くの臨床医師に、後込みをさせることになるかもしれません。しかし栄養療法の本質を忘れさえしなければ、栄養素のエビデンスの問題は、それほど神経質になる必要はありません。すべては栄養療法の原則・基本を正しく守っているかどうかに行き着くのです。

ホリスティック栄養学における栄養療法の原則は、徹底した“食事改善”にあります。「欧米型の食事を、かつての伝統食に戻す努力が栄養療法のメインになる」ということです。それが治療法の80%以上の部分を占めることになります。この点が生化学栄養療法や、一般の現代栄養学療法との大きな違いです。メインの食事改善の補助手段・補強手段として、現代科学に基づくサプリメントやハーブの使用を導入するということです。「サプリメントへの依存度が低い」という点で、ホリスティック栄養学は、生化学栄養療法とは大きく異なっています。

ホリスティック栄養学の治療法全体の中に占めるサプリメントやハーブの割合は、わずか20%にも至りません。ホリスティック栄養学からすれば、食事改善のともなわない栄養療法は本来的に成立しませんし、食事改善を優先しない治療法は本物ではないということです。サプリメントやハーブだけに頼る栄養療法は存在しないのです。その意味で多くの生化学栄養療法と対立することにもなります。

もしサプリメントやハーブの使用だけでよし、と考える臨床医や治療家がいるとするなら、それは大きな間違いであるというのが、ホリスティック栄養学の基本的な考え方なのです。

食事改善をメインとするかぎり、エビデンスの問題はそれほど大きくない
サプリメントだけに頼って栄養療法を進める臨床医師にとっては、科学的エビデンスはきわめて大きな要因となります。場合によっては、新しいエビデンスの実証によって、それまでの自分の治療体系が根本から崩されてしまうような事態を迎えることも考えられます。サプリメントだけを重視する間違った栄養療法は、エビデンスをめぐって、いつなんどき深刻な事態に遭遇するかしれないのです。

食事改善をメインにして、サプリメント使用を補助手段とするホリスティック栄養療法においては、特別深刻な問題は生じません。仮にこれまでの栄養学の常識が覆されるような事態に至っても、結果的には補助的治療手段の一部分に修正や変更の必要性が生じるといった程度のことにすぎません。ホリスティック栄養療法の大枠・基本ラインが根本から崩されるようなことにはなりません。

ホリスティック栄養学は、先にも述べたように単独での治療(栄養療法)を目的としたものではなく、他の有効性のあるホリスティック医学の治療法と併用し、組み合わせて用いられることを初めから前提としています。それを考えると、単なる栄養素をめぐっての“エビデンス”は、それほど大きな問題ではないということになります。

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