第6の栄養素「食物繊維」

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食物繊維とは

最近になって日本でも、食物繊維(ダイエタリーファイバー)が話題になっています。かつては何の栄養価もない食べ物のカスのように扱われていましたが、栄養学の進歩とともに、その重要性が知られるようになってきました。

現在では「食物繊維」は

――「食品中にあって、消化の過程で分解されない高分子成分」と定義されています。つまり食物繊維は、小腸までの消化プロセスでは消化・吸収されず、大腸まで達する食品成分のことです。今では新しい栄養素として、その有用性が明らかにされつつあります。

食物繊維は消化・吸収されないために、他の栄養素のように体の構成材料やエネルギー源とはなりませんが、消化管を通過する間に、健康にプラスとなるさまざまな効果をもたらします。(※食物繊維は消化吸収されませんが、実際には大腸で腸内細菌によって分解され、分解物が利用されることでエネルギーを発生します。)

食物繊維は、成人病・生活習慣病の予防に有効であるだけでなく、体のバイオリズムの調節や、免疫力・治癒力を正常化するなど、きわめて重要な生理作用にかかわっています。そのため「食物繊維」は、炭水化物・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルに次ぐ第6の栄養素として注目を浴びるようになってきました。

食物繊維の種類

食物繊維は大きく、水に溶けない「不溶性食物繊維」と、水に溶ける「水溶性食物繊維」に分けられます。

「不溶性食物繊維」は、主に植物の細胞膜を構成していて、立体的ですきまだらけの構造をしています。胃や腸の中でも水に溶けず、腸内細菌によってもほとんど分解されずに、そのまま排泄されます。不溶性食物繊維は水分を吸収してふくらみ、それが腸壁を刺激して腸の運動を活発にし、自然な便通を促します。不溶性食物繊維には、全粒穀類をはじめ豆類・種子類・ナッツ類・野菜や芋類に含まれる、「セルロース」「ヘミセルロース」「リグニン」などがあります。(※一般に「不溶性食物繊維」という場合には、この3種類を指しますが、ヘミセルロースの中には、わずかですが水に溶けるものがあります。)

「水溶性食物繊維」は、植物の細胞内にある成分でヌルヌルして水に溶け、ゼリー状に固まる(ゲル化する)性質があります。胃や小腸で他の食べ物を包み込んで食物繊維が固まることで、食べ物が消化管を移動するスピードが遅くなり、それが健康にプラスとなります。水溶性食物繊維には、果物や野菜に多く含まれる「ペクチン」や、オーツ麦(カラス麦)や大麦・ライ麦などの胚乳に含まれる「ガム質」、コンニャクや山芋などに含まれる「マンナン」、ワカメやコンブなどに含まれる「アルギン酸」などがあります。(※熟した果物や野菜に含まれる「ペクチン」は“水溶性”ですが、まだ熟していない硬い果物に含まれるものは“不溶性”です。このように果物が柔らかくなるのは、ペクチン質が変化するからです。)

その他に動物性食物繊維として、エビやカニの殻の主成分である「キチン」があります。キチンは不溶性ですが、それを加工してつくられる「キトサン」は水溶性です。また動物の軟骨の主成分である「コンドロイチン硫酸」も、食物繊維の仲間と言えます。これは動物だけでなく、納豆・山芋・オクラなど、ネバネバしたものに少量含まれています。(※このように食物繊維にはいろいろな種類があり、広い意味で“多糖類”――ブドウ糖やガラクトースなど、たくさんの単糖からできている――に属します。)

食物繊維と現代病の関係

食物繊維の摂取が、病気の発生と深い関係があることを示す有名な研究データが、1973年に、英国人医師バーキットによって発表されています。それはアフリカ人とイギリス人の“便”を比較したものです。

その報告によれば、「アフリカ人」の1日の便の量は、イギリス人の4倍にも達し、太く軟らかく、ほとんど臭いがしません。それに比べ「イギリス人」の便は、硬く圧縮されていて細く、何よりもひどい悪臭がするのです。研究によって、アフリカ人は食べた物をほぼ1日で排泄しているのに対し、イギリス人は平均3日もかかっていることが分かりました。

当時、アフリカの田舎に住んでいた人々の食事の特徴は「低脂肪・高食物繊維」で、食物繊維はイギリス人の3倍も摂っていました。バーキットと彼の仲間の医師たちは、食物繊維の摂取と病気との関連を調べ続け、その結果をイギリスの医学雑誌に発表したのです。彼らの論文は、欧米の医学界に大きな衝撃を与えることになりました。

その中でバーキットは、現代の欧米社会に多く見られる―心臓病・胆石・大腸ガン・虫垂炎・痔・肥満・糖尿病・静脈瘤などの病気は、「食物繊維」を大量に摂っているアフリカ人には、ほとんど発生していないことを明らかにしました。(※ところが同じアフリカ人でも、都会に住み、欧米化した食事を摂っている人々の間には、欧米人なみに“現代病”が蔓延していました。)

そうした報告に触発された世界中の医師たちのその後の研究によって、バーキット博士の発表は裏付けられました。大腸内での食物繊維の働きが明らかになり、その重要性が認識されるようになったのです。

現代病を防ぐ食物繊維の働き

食物繊維の研究が進むにつれ、その重要な働きが徐々に明らかになってきました。ここでは、現代人に不足している「食物繊維」の幅広い効用を見ていきます。

(1)カロリーの摂り過ぎを防ぎ、消化器官の働きを助ける

「不溶性食物繊維」の多い食品は、パサパサして硬いため、よく噛まないと飲み込めません。そのため自然にゆっくりと食べるようになり、早食いによる過食が防がれます。食物繊維が、食品の水分や唾液・胃液などと混じり合ってふくれ、長く胃にとどまって満腹感が持続します。

さらによく噛むことで歯ぐきやあごが強くなり、唾液も多く分泌されるようになります。唾液にはアミラーゼ(デンプン分解酵素)が含まれており、消化が助けられます。また唾液には解毒成分も含まれています。唾液の解毒作用はかなり大きく、有害物質の種類によっては、毒性を何十分の一にまで低下させることができると言われます。

(2)ブドウ糖の吸収をゆるやかにし、血糖値の急激な上昇を防ぐ

「水溶性の食物繊維」は、胃の中で水分を吸収してゲル状に固まり(粘度が増し)、血糖のコントロールを助ける働きをします。食物繊維が胃の中で他の食べ物を包み込んで固まると、食べ物が胃から小腸にいくスピードが遅くなり、ブドウ糖などの栄養素がゆっくりと吸収されることになります。それによって食後の急激な血糖値の上昇が抑えられ、低血糖症や糖尿病の予防につながります。

水溶性食物繊維だけでなく「不溶性食物繊維」も、ブドウ糖の吸収をゆるやかにします。たとえば玄米などのように精製度の低い穀類に含まれるデンプンは、食物繊維でしっかりと包まれています。これを消化するには、食物繊維の外皮を少しずつはがし、ブドウ糖を1つ1つ切り分けていかなければなりません。そのためブドウ糖は、ゆっくりとしたペースで吸収されることになります。(※デンプンは炭水化物の1種で、非常にたくさんのブドウ糖からできている多糖類です。)

このように食物繊維は、血糖のコントロールにおいて大切な役目を担っています。(※“低血糖症”については「砂糖」の箇所で詳しく述べています。)

(3)脂肪・胆汁の吸収を抑え、血中コレステロールを減少させる

「水溶性食物繊維」は、コレステロール・脂肪・胆汁などの吸収を抑制し、血中コレステロールを減少させる働きがあります。ゲル化した食物繊維は、腸内で脂肪やコレステロール・胆汁などを包み込み、その吸収を妨げて排泄を進めます。

食物繊維が「胆汁」の排泄を促すことで、体内でのコレステロールの消費が増し、血中コレステロールを減らすことができると言われます。肝臓でコレステロールからつくられる「胆汁(胆汁酸)」は、腸内で脂肪と結びつき、小腸における脂肪の吸収を助けます。その胆汁を食物繊維が吸着し、便として排泄させることで、結果的に血中コレステロールが減少することになります。

(4)便通をスムーズにして、有毒物質の排泄を促進する

「不溶性食物繊維」は、水分を吸収して数倍から数十倍(※20~30倍)にもふくれるため、腸壁を刺激して腸の蠕動運動を活発にします。水を吸って適度に軟らかでボリュームのある便は、腸内をスムーズに進み、無理なく排泄されることになります。「水溶性食物繊維」も、便通を助けます。食物繊維を材料にして「腸内細菌」が発酵を進め、その発酵物質が腸の蠕動運動を促し、自然な排便をもたらします。

このように食物繊維の働きで便通がよくなり、便が腸内にとどまる時間が短くなり、腸内環境の悪化が防がれます。それによって発ガン物質・有毒物質の生成・吸収が抑えられ、排泄が促進されます。食物繊維には、食品や空気から取り込まれた農薬や重金属・有害化学物質などを吸着して、排泄させる効果もあります。

またスムーズな便通によって力まずに排便できるため、痔や憩室症(※腸内の圧力によって大腸に突起ができ、炎症を起こす病気)などが防がれ、静脈瘤の予防にもつながります。

(5)腸内細菌(有益菌)が働きやすい環境をつくる

「水溶性食物繊維」は、大腸内で腸内細菌の“エサ”になり、細菌が働きやすい環境をつくります。腸内細菌は食物繊維を発酵させ、人体にプラスとなる多くの発酵物質を生成します。食物繊維が材料となって生み出された「発酵物質(酸性物質)」は、腸内のPHを弱酸性に保ち、腸内の腐敗からくる「有害菌」の繁殖を抑えます。そして「有益菌」が生育・活動しやすい環境をつくり出します。

また「不溶性食物繊維」は、ほとんど消化・分解されませんが、腸内細菌が住みやすい環境をつくるのに役立ちます。(※一般に有益菌は「善玉菌」、有害菌は「悪玉菌」と呼ばれています。)

その他にも食物繊維には、さまざまな効用があります。海藻に含まれる「アルギン酸」は、消化管内のナトリウムの排泄を促し、ナトリウムの過剰摂取による害を防ぎます。また肝機能や免疫力を高める作用なども知られています。

キノコ類に含まれる「ベータ・グルカン」は、免疫力をアップし、ガンをはじめとする生活習慣病の予防に役立つと言われます。動物性食物繊維の「キチン・キトサン」も、その幅広い効果が注目されています。

このように「食物繊維」のもたらすメリットは多くありますが、「(4)便通をスムーズにして、有毒物質の排泄を促進する」「(5)腸内細菌(有益菌)が働きやすい環境をつくる」というのが、最も重要な働きです。腸内環境を改善し、腸内細菌のエサになってその働きを助けることが、「食物繊維」の最大の効用と言えます。

※2000年4月の『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に、「大腸ガンと食物繊維の因果関係」についての人間を対象とした臨床研究の結果が発表され、議論を巻き起こしました。それによると、これまで一般的に考えられていた「食物繊維が大腸ガンの発生を防ぐ」という見解が、必ずしも正しいとは言えないというのです。

しかしその研究は、食物繊維の摂取と大腸ガン(※実際には前ガン病変である大腸ポリープ)との間には、直接的な因果関係はないという可能性があることを明らかにしたものにすぎません。現代人が多食する肉と食物繊維を組み合わせて摂取した場合に、食物繊維が大腸ガンを防ぐ効果をもっているか、いないかを明らかにしたものではないのです。

そもそも病気と食事の関連については、どこまでも複数の要因を組み合わせたトータル的な判断が必要とされます。「大腸ガンと食物繊維」という単一の因果関係を調べて効果のあるなしを論じても、本質的な結論を導き出すことはできません。

欧米型食事の特徴の1つは「肉食(高タンパク)・低食物繊維」ですが、おそらくは「高タンパク・低食物繊維」という組み合わせが、大腸ガンの発生に結び付くものと思われます。研究では、大腸ガンと食物繊維との関連についてのみ調査し、その間には因果関係がないということが明らかにされただけなのです。「高タンパク・低食物繊維の組み合わせが、大腸ガンを発生させない」という結論に至ったわけではありません。

先に述べたバーキットの研究も、一般的には「食物繊維と現代病の関係」を明らかにしたものと考えられていますが、実は「アフリカ人の欧米食化と現代病の因果関係」を明確にしたものと言えます。バーキットは「食物繊維」という1つの要素に注目して研究成果を報告していますが、本来は――「高タンパク・高脂肪・低食物繊維という“欧米型食事”と、大腸ガンをはじめとするさまざまな現代病との因果関係を疫学的に明らかにしたもの」と見るべきでしょう。

食物繊維を不足させている現代人

百年前の人々と比べ、現代のアメリカ人の食物繊維の摂取量は、20~25%にすぎないと言われます。そしてこの傾向は、そのまま現在の日本人にも当てはまります。昭和30年以前の日本人と比べ、食物繊維の摂取量はかなり減少しています。

食物繊維は一部を除いて「植物性食品」に含まれます。そのため、穀類や豆類・野菜・海藻などを多く食べていた従来の日本人は、食物繊維が不足するようなことはありませんでした。しかし食生活が欧米化し、肉や牛乳などの「動物性食品」が大量に摂取されるようになった現代では、食物繊維の摂取量は急激に減ってしまいました。

また日本人の主食であり、貴重な食物繊維源である穀類も、過剰な精製によって繊維と栄養をはぎ取られ、真っ白になってしまいました。欧米型の食事においては、決まって「白いもの、やわらかいもの」が好まれるようになります。こうして、ますます「食物繊維」は欠乏することになりました。

食物繊維を多く摂るような「食生活改善」

最近では自然食ブームによって、白米や白パンの代わりに、玄米や雑穀・小麦全粒粉のパンを食べる人が徐々に増えてきました。また伝統的な日本食のよさを見直す動きも起こっています。

本書の第6章では、食事改善の具体的な方法について述べていますが、そこでは植物性食品と動物性食品の摂取比率を「9:1」にするように勧めています。この指針に従って食事改善をし、植物性食品を多く摂るようにすれば、食物繊維は十分補給できるようになります。

食物繊維は――「穀類・豆・種子・ナッツ」「野菜・芋・キノコ」「海藻」「果物」に多く含まれています。そしてそうした食品には、私たちが健康を保つのに不可欠な栄養素も豊富に含まれています。最近では、植物性食品中のさまざまな生理活性物質についての研究が進み、その素晴らしい働きが注目を集めています。

海藻やキノコ類は食物繊維の宝庫で、かなり高い含有率を示していますが、食物繊維の働きは種類によって異なるため、多種類の食品から摂ることを勧めます。そうすれば他の栄養素もバランスよく含まれた、理想的な「低脂肪」「高食物繊維」の食事ができあがります。

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